グループ会社の香港法人税申告手続き
📋 ポイント早見
- 二段階税率制度: 法人は最初の200万香港ドルの利益に8.25%、残額に16.5%の税率が適用されます。関連グループ内で低税率を適用できるのは1社のみです。
- 源泉地主義: 香港で発生した利益のみが課税対象です。オフショア(香港外)で得られた利益は原則非課税です。
- 記録保存義務: 事業記録は関連する課税年度終了後、最低7年間保存する必要があります。
- 電子申告: 利得税申告書は、税務局のeTAXポータルを通じて電子提出が義務付けられています。
- 移転価格税制: グループ会社間取引は独立企業間価格(アームズレングス原則)に従い、適切な文書化が必要です。
香港におけるグループ会社の法人税申告は、特有の課題と機会を伴います。香港の源泉地主義に基づく税制、二段階税率、そしてグループ特有の申告要件を理解し、コンプライアンスを確保しながら税務ポジションを最適化する戦略的アプローチが求められます。本ガイドでは、2024-2025年度における香港のグループ会社の法人税申告手順を、ステップバイステップで詳しく解説します。
香港の法人税制度の基本理解
香港は「源泉地主義」に基づく課税を行っており、香港内で源泉が生じた利益のみが利得税の課税対象となります。この原則は、会社の設立地に関わらず、香港で事業を行うすべての会社に適用されます。法人課税を規定する主要な法律は「税務条例(Inland Revenue Ordinance: IRO)」であり、利益の算定、税率の適用、コンプライアンス義務に関する包括的なルールを定めています。
二段階利得税制度
香港は2018/19年度より、中小企業を支援するため二段階利得税制度を導入しました。2024-2025課税年度における税率は以下の通りです。
| 事業体の種類 | 最初の200万香港ドル | 残りの利益 |
|---|---|---|
| 法人 | 8.25% | 16.5% |
| 非法人事業 | 7.5% | 15% |
グループ会社の構造と関係性の把握
税額計算と申告を行う前に、グループ全体の構造を綿密に把握する必要があります。これは単なる組織図の作成ではなく、すべての事業体にわたる所有権の階層と議決権の分布に関する詳細な文書化が求められます。
- 所有権階層の文書化: すべてのグループ事業体の直接・間接所有比率を示す包括的なチャートを作成します。
- 支配基準の確認: グループ税務上の考慮において、子会社とは通常、発行済み株式資本の50%以上を所有している場合を指します。各事業体が関連する支配基準を満たしているか確認します。
- 越境関係の特定: 租税条約や外国税額控除を通じて香港の税務ポジションに大きな影響を与える可能性があるため、国際的なつながりは早期に把握しておきます。
各事業体の納税義務額の計算
香港の利得税は事業体ごとに課税されるため、グループ内の各法人について個別に計算を行う必要があります。
ステップバイステップの計算プロセス
- 個別財務諸表の作成: 各会社は、法令に準拠した個別の財務記録を必要とします。連結決算は全体像を提供しますが、事業体固有の財務諸表の代わりにはなりません。
- 課税対象利益の決定: 会計上の利益に、非控除経費(資本的支出、特定の引当金など)を加算し、許容される控除額(適格資産に対する資本控除など)を減算して調整します。
- 二段階税率の適用: 各事業体ごとに税額を計算し、最初の200万香港ドルの課税対象利益には8.25%、残額には16.5%を適用します。
| 事業体 | 課税対象利益 | 税額計算 | 納付税額 |
|---|---|---|---|
| A社(低税率適用対象) | 150万香港ドル | 150万香港ドル × 8.25% | 123,750香港ドル |
| B社 | 300万香港ドル | 200万香港ドル × 16.5% + 100万香港ドル × 16.5% | 495,000香港ドル |
| C社 | 80万香港ドル | 80万香港ドル × 16.5% | 132,000香港ドル |
グループ会社間取引と移転価格税制の管理
グループ会社間の取引は、香港の移転価格規則へのコンプライアンスを確保するため、慎重な管理が必要です。独立企業間価格(アームズレングス)原則が基本であり、関連当事者間の価格設定は、無関係な事業体が公開市場で交渉する条件を反映しているべきです。
移転価格文書化要件
- マスターファイル: 多国籍企業グループの事業とグローバルな移転価格ポリシーに関する高レベルの概要。
- ローカルファイル: 香港事業体に特化した、現地の事業、取引、および分析の詳細。
- 国別報告書: 連結収益が約68億香港ドル(約7.5億ユーロ)を超える多国籍グループに要求されます。
グループ税制優遇措置の活用
香港は、グループ会社向けに特定の税制優遇措置を提供しており、適切に活用することで全体の税務ポジションを大幅に最適化できます。
| 優遇措置の種類 | 主な利点 | 一般的な要件 |
|---|---|---|
| グループ内欠損金の通算 | あるグループ会社の欠損金を、別の会社の利益と通算 | 適格な共通所有権構造(>50%)および関連期間 |
| 研究開発(R&D)税制優遇 | 適格な研究開発支出に対する拡大控除 | 税務条例(IRO)の厳格なR&D定義を満たす支出 |
| 特定経費のグループリリーフ | 特定の適格経費をグループメンバー間で移転 | 定義された経費タイプと特定の関係性基準の充足 |
申告期限とコンプライアンス要件の遵守
香港のグループ会社にとって、正確かつ期限厳守の申告は絶対条件です。このプロセスには、組織全体にわたる綿密な計画と調整が必要です。
グループ会社向け主要申告書類
| 書式種類 | 説明 | 提出方法 |
|---|---|---|
| IRCF 51 | 法人用利得税申告書 | 電子(eTAX) |
| IRCF 52 | 子会社を有する法人用利得税申告書 | 電子(eTAX) |
| IRCF 53 | 休眠会社用利得税申告書 | 電子(eTAX) |
申告タイムラインの調整
- 内部期限の設定: 財務部門が財務諸表を確定するための明確なタイムラインを確立します。
- 監査人との調整: 外部監査人が税務局の期限より十分前に作業を完了できるようにします。
- 税務代理人の準備: 税務アドバイザーが申告書を準備・レビューする十分な時間を確保します。
- 電子提出: 必要なすべての添付書類とともに、税務局のeTAXポータルを通じて提出します。
税務局監査と法改正への備え
監査リスクの管理と、BEPS 2.0やグローバル最低税などの国際的動向を含む香港の変化する税務環境への適応には、事前の準備が不可欠です。
| 重点分野 | 重要性 | 主要な準備活動 |
|---|---|---|
| 移転価格 | 監査リスクの高い分野(グループ会社間取引に焦点) | 年次リスク評価、同時進行の文書更新 |
| グローバル最低税(第2の柱) | 収益7.5億ユーロ以上の多国籍企業に2025年1月1日より適用 | グループ構造への影響評価、15%最低実効税率への備え |
| 監査・紛争対応 | 税務当局の照会への効率的な対応を確保 | 明確な内部手順の確立、責任者の割り当て |
✅ まとめ
- 香港の源泉地主義税制では、現地源泉の利益のみが課税対象となり、オフショア利益は原則非課税です。
- 二段階利得税制度(最初の200万香港ドルに8.25%、残額に16.5%)では、関連グループごとに低税率を適用できるのは1社のみです。
- グループ会社間取引には、独立企業間価格原則への準拠を証明する適切な移転価格文書化が不可欠です。
- グループ会社は、適切な書式(IRCF 51, 52, 53)を用いて、税務局のeTAXポータルを通じて個別に電子申告を行う必要があります。
- 潜在的な監査時に税務ポジションを立証するため、事業記録は7年間保存しなければなりません。
- グローバル最低税(2025年施行)などの法改正への事前準備は、多国籍グループにとって極めて重要です。
香港におけるグループ会社の法人税の成功的管理には、コンプライアンスと最適化のバランスを取る戦略的かつ調整されたアプローチが必要です。源泉地主義の理解、二段階税率の適切な適用、強固な移転価格文書の維持、法改正への先取り対応を通じて、多国籍企業は香港の税務環境を効果的にナビゲートできます。本ガイドは包括的な情報を提供しますが、複雑なグループ構造には、特定の状況に合わせた専門的な税務アドバイスが有益であることを覚えておいてください。
📚 参考資料
本記事の内容は、香港政府の公式資料および信頼できる情報源に基づいて作成されています:
- 香港税務局(IRD) – 公式税率、控除額、税務規則
- 差餉物業估価署 – 不動産評価
- 香港政府ポータル – 香港特別行政区政府公式サイト
- 立法会 – 税務法規・改正
- IRD 利得税ガイド – 利得税に関する包括的情報
- IRD 移転価格文書化 – マスターファイル及びローカルファイルの要件
- OECD BEPS – 税源浸食と利益移転に関する国際的枠組み
最終更新:2024年12月 | 本記事の情報は一般的な参考情報であり、具体的な問題については資格を持つ税務専門家にご相談ください。