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香港における賃貸物件売却の税務影響

📋 ポイント早見

  • 不動産税(物業税)税率: 純課税価値(賃貸収入から差餉と20%の法定控除を差し引いた額)の15%
  • 印紙税の重要変更: 特別印紙税(SSD)、買主印紙税(BSD)、新規住宅印紙税(NRSD)は2024年2月28日に廃止
  • キャピタルゲイン: 香港にはキャピタルゲイン税はありませんが、不動産売買による事業所得は法人で8.25%/16.5%、個人事業で7.5%/15%の利得税の対象となります
  • 減価償却控除: 工業用建物は初期控除20%+毎年4%、商業用建物は毎年4%、設備・機械は初期控除60%+毎年10-30%

香港で賃貸物件を売却することは、大きな利益をもたらす可能性がありますが、その税務上の影響を理解し、適切に計画することは非常に重要です。長期的な投資家が値上がり益を実現する場合でも、不動産売買を事業とする方が利益を得る場合でも、香港の独自の税制が物件売却をどのように扱うかを理解することが成功の鍵となります。本ガイドでは、継続的な不動産税の義務から、キャピタルゲインと事業所得の重要な区別まで、最新の2024-2025年度の税制に準拠しながらリターンを最大化するためのすべてを解説します。

賃貸収入に対する不動産税(物業税):継続的な納税義務

香港で賃貸物件を所有している間は、その賃貸収入に対して不動産税(物業税)が課税されます。この税金は、純課税価値(Net Assessable Value, NAV)に対して固定税率15%で計算されます。計算式には自動的に控除が組み込まれており、比較的わかりやすい仕組みとなっています。

不動産税の計算方法

純課税価値は、総賃貸収入(総課税価値)から所有者が支払った政府の差餉を差し引き、さらに修繕費や諸経費として20%の法定控除額を差し引くことで算出されます。この20%の控除は自動的に適用され、実際の経費の領収書を提出する必要はありません。

項目 説明 影響
総課税価値 受け取った総家賃、権利金、その他の対価 加算
差し引く:所有者が支払った差餉 不動産所有者が支払った政府の差餉 減算
差し引く:法定控除額 総課税価値の20%(固定) 減算
純課税価値 不動産税計算の基礎 結果
💡 専門家のヒント: すべての賃貸収入と差餉の支払い記録を詳細に保管しましょう。20%の法定控除は自動的に適用されますが、不動産税申告書(BIR57フォーム)の作成や、税務調査が入った際の主張を裏付けるために正確な記録が必要です。

重要な区別:キャピタルゲイン vs 事業所得

ここが多くの不動産所有者が混乱するポイントです。香港にはキャピタルゲイン税はありません。物件を長期的な投資として保有し売却した場合、その利益は通常キャピタルゲインとみなされ、課税対象にはなりません。しかし、税務局(IRD)があなたが不動産売買を「事業(トレーディング)」として行っていたと判断した場合、その利益は利得税(Profits Tax)の課税対象となります。

税務局が「事業」と「投資」を判断する基準

税務局は、売主の意図を判断するために以下のような「事業の徴表(badges of trade)」を総合的に検討します:

  • 取引の頻度: 定期的な売買は事業を示唆します
  • 資金調達方法: 短期融資や高いレバレッジは事業の可能性を示します
  • 保有期間: 短期間(一般的に2年未満)の保有は要注意です
  • 物件の性質: 売却前に大規模な改修を要する物件は事業を示唆することがあります
  • 主な職業: 不動産関連の専門職に就いている人は、事業者とみなされる可能性が高くなります
⚠️ 重要な注意: 何をもって「事業」とするかについて固定的なルールはありません。税務局は「状況の全体性」を精査します。ご自身の状況がどちらに該当するか不確かな場合は、税務申告を行う前に専門家のアドバイスを求めることを強くお勧めします。

「事業」と判断された場合の利得税(Profits Tax)税率

物件売却が事業取引とみなされた場合、以下の税率で利得税が課税されます。

事業形態 最初の200万香港ドル 残額
法人 8.25% 16.5%
非法人事業(個人事業主など) 7.5% 15%

印紙税:2024年の主要な変更点

2024年の不動産売買に影響する最も重要な変更点の一つは、2024年2月28日に複数の印紙税措置が廃止されたことです。これにより、売主・買主双方にとって印紙税の状況が大幅に簡素化されました。

💡 専門家のヒント: BSD、SSD、NRSDの廃止により不動産取引はよりシンプルになりました。ただし、従価印紙税(AVD)は引き続き適用され、買主は仮契約書締結後30日以内に支払う責任があります。

現在の従価印紙税(AVD)税率(2024年2月以降)

物件価格 税率
300万香港ドル以下 100香港ドル
300万〜352.8万香港ドル 100香港ドル + 超過分の10%
352.8万〜450万香港ドル 1.5%
450万〜493.5万香港ドル 1.5%〜2.25%
493.5万〜600万香港ドル 2.25%
600万〜664.3万香港ドル 2.25%〜3%
664.3万〜900万香港ドル 3%
900万〜1,008万香港ドル 3%〜3.75%
1,008万〜2,000万香港ドル 3.75%
2,000万〜2,173.9万香港ドル 3.75%〜4.25%
2,173.9万香港ドル超 4.25%

減価償却控除と売却時の影響

賃貸物件に対して減価償却控除(商業用・工業用建物、または設備・機械など)を適用してきた場合、これらは売却時の税務ポジションに影響を与える可能性があります。特に売却が事業取引とみなされた場合に影響が大きくなります。

減価償却控除の種類

資産の種類 初期控除率 毎年の控除率
工業用建物構造 20% 4%(取得原価に対して)
商業用建物構造 該当なし 4%(取得原価に対して)
設備・機械(例:家具) 60% 20%
設備・機械(例:空調設備) 60% 10%
設備・機械(例:コンピューター) 60% 30%

売却時、売却代金が帳簿価額(取得原価からこれまでに適用した控除総額を差し引いた額)を上回る場合、「清算益(balancing charge)」が発生する可能性があります。この清算益は課税対象の所得として扱われます。逆に、帳簿価額を下回る価格で売却した場合は、「清算損(balancing allowance)」が発生し、課税対象となる利益を減らすことができます。

コンプライアンスのタイムラインと避けるべき一般的なミス

賃貸物件を売却する際には、適切なタイミングと正確な申告が不可欠です。申告期限やよくある落とし穴について知っておくべきことをご紹介します。

主要な申告期限

  1. 不動産税申告書: 売却日までの賃貸収入について、毎年BIR57フォームを提出
  2. 利得税申告書: 売却が事業とみなされる場合、売却が行われた会計年度(4月1日〜3月31日)の利得税申告書で報告
  3. 印紙税: 買主は仮契約書締結後30日以内に従価印紙税(AVD)を支払う
  4. 記録の保存: 不動産に関連するすべての記録を7年間保管

一般的な税務計算の誤り

よくある誤り 影響
賃貸収入と売却代金を混同する 課税対象所得が歪む。売却日までの賃貸収入は不動産税の対象、売却代金はキャピタルゲイン(非課税)または事業所得(課税)のいずれか
控除可能な経費を見落とす 差餉、修繕費、管理費など、認められるすべての経費を申告しないと、不必要に不動産税負担が増加
唯一の居住用物件控除を誤って申請する 賃貸物件は通常この控除の対象外。誤った申請は再評価とペナルティの原因に
減価償却の清算益を無視する 減価償却控除を適用してきた場合、売却代金が課税対象の清算益を発生させる可能性がある
⚠️ 重要な注意: 税務局は過去6年分(詐欺の場合は10年分)まで遡って課税することができます。購入書類、改修費用、賃貸契約書、売却書類などの詳細な記録を厳密に保管してください。デジタルコピーも認められますが、判読可能で完全なものである必要があります。

売却前の戦略的検討事項

売却のタイミングと構造は、税務上の結果に大きな影響を与える可能性があります。以下の戦略的なポイントを検討してください。

  • 保有期間: 長い保有期間(一般的に2年以上)は、事業意図ではなく投資意図を支持する材料となります
  • 事業体の構造: 法人を通じて売却するか個人所有のまま売却するかで、税率や控除の可能性が変わります
  • 再投資: 香港には正式な再投資控除制度はありませんが、売却を所得が低い年に合わせることで、事業所得とみなされた場合の全体的な税負担を軽減できる可能性があります
  • 専門家のアドバイス: 「事業」と「投資」の判断は複雑であるため、売却を最終決定する前に税務の専門家に相談することをお勧めします

まとめ

  • 香港にはキャピタルゲイン税はありませんが、不動産売買による事業所得は法人で8.25%/16.5%、個人事業で7.5%/15%の利得税の対象となります。
  • 賃貸収入に対する不動産税は、純課税価値(家賃から差餉と20%の法定控除を差し引いた額)の15%です。
  • 2024年の印紙税の主要変更点:SSD、BSD、NRSDは2024年2月28日に廃止され、現在は従価印紙税(AVD)のみが適用されます。
  • 投資(非課税)と事業(課税)の重要な区別は、売主の意図と状況に依存します。
  • 記録は7年間保管し、自身の税務状況に不確かな点がある場合は専門家のアドバイスを求めましょう。

香港で賃貸物件を売却することは経済的に報われる可能性がありますが、その税務上の影響には慎重な対応が必要です。キャピタルゲインと事業所得の区別を理解し、印紙税の変更点を把握し、適切な記録を保管することで、法令を遵守しながら税務ポジションを最適化することができます。不動産税務の複雑さと税務局による不動産取引の精査を考慮すると、売却を最終決定する前に資格を持つ税務専門家に相談することが、しばしば最善の投資となるでしょう。

📚 参考資料

本記事の内容は、香港政府の公式資料および信頼できる情報源に基づいて作成されています:

最終更新:2024年12月 | 本記事の情報は一般的な参考情報であり、具体的な問題については資格を持つ税務専門家にご相談ください。

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