香港の空殻会社の戦略的活用:合法的税務回避と非合法の脱税
📋 ポイント早見
- 法的位置づけ: 実体のない香港会社自体は違法ではありませんが、その税務上の取り扱いは「経済的実質」の有無によって決まります。
- 基本原則: 香港は源泉地主義を採用しており、香港で発生した所得のみが課税対象です。
- 重要な変更点: 2023年に導入された外国源泉所得免税(FSIE)制度により、オフショア配当・利子・譲渡益の免税には、香港における実質的活動が求められます。
- 事業所得税(利得税): 法人の場合、最初の200万香港ドルの課税所得には8.25%、それを超える部分には16.5%の税率が適用されます。
- グローバル最低税: 香港は2025年1月1日より、連結収益7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループを対象に、15%のグローバル最低税(第2の柱)を施行します。
書類上だけの会社が、所有者に数百万香港ドルの節税をもたらすとしたらどうでしょうか。これが、香港の「ペーパーカンパニー(シェルカンパニー)」が約束する可能性と危険性です。グローバルな税務透明性が求められる現代において、戦略的な税務計画と過度な租税回避の境界線はかつてなく曖昧になっています。香港の有利な税制を活用すること自体は完全に合法ですが、実質的な経済活動を伴わない構造は、香港内外の当局からかつてないほどの監視の対象となっています。本記事では、法的な枠組みを明らかにし、神話とコンプライアンスの現実を分け、強固で正当性のある香港法人構造を構築するための道筋をご紹介します。
「シェルカンパニー」の定義:法的形態と経済的実質
香港の会社法上、「シェルカンパニー」とは、設立はされているものの、活動的な事業運営、従業員、または物理的資産が最小限または全く存在しない非公開有限会社を指します。その価値は法的な存在そのものにあります。適切に使用されれば、投資の保有、知的財産の管理、取引のための特別目的会社(SPV)としての役割など、正当な目的に役立てることが可能です。
法的根拠:香港の源泉地主義(Territorial Tax Principle)
香港の税制は厳格な源泉地主義を採用しています。《税務条例(第112章)》の下では、香港で生じ、または香港から得られた利益のみが事業所得税(利得税)の対象となります。この原則こそが、香港を持株会社や地域統括本部の設立地として魅力的にしている理由です。従来は、外国子会社からの配当金や海外資産の売却益を、香港源泉ではない(オフショア)所得として申告し、香港での課税を免れることが可能でした。
状況を一変させた制度:外国源泉所得免税(FSIE)制度
国際的な税務基準に準拠するため、香港は2023年1月に外国源泉所得免税(FSIE)制度を導入し、2024年1月に大幅に拡大しました。この制度は、多くの持株会社を含む多国籍企業(MNE)の構成会社が香港で受け取る受動的所得を直接の対象としています。
FSIE制度は、配当、利子、株式の処分益(譲渡益)、知的財産所得の4種類の外国源泉所得を対象としています。この所得について香港の事業所得税の免税を主張するためには、受け取り事業体が特定の「経済的実質要件」を満たさなければなりません。
| FSIEの要件 | 持株会社にとっての意味 |
|---|---|
| 適切な数の従業員 | 投資を管理・保有するために、香港に十分な数の適格な従業員を置くこと。従業員ゼロの「名目だけ(brass plate)」の運営は認められません。 |
| 適切な額の営業経費 | 所得を生み出す活動に関連して、香港で意味のあるレベルの経費(例:オフィス賃貸料、専門家報酬、給与)を計上すること。 |
| 香港で行われる実質的活動 | 投資に関する戦略的意思決定などの、中核的な所得創出活動が香港で実行されること。 |
危険信号:戦略的計画が過度な租税回避になる時
香港税務局を含む世界中の税務当局は、商業的合理性に欠ける構造を見抜く訓練を受けています。以下のパターンは、税務調査や再評価を引き起こす主要な危険信号となります。
| 特徴 | 低リスク / コンプライアンス順守 | 高リスク / 非コンプライアンス |
|---|---|---|
| 管理と支配 | 香港で定期的に取締役会を開催し、戦略的決定を行う、プロフェッショナルな居住者取締役。 | 実権のない名義上の取締役。取締役会が海外で開催される、または全く開催されない。 |
| 銀行取引 | 裏付けとなる請求書や契約書がある、真の事業に即した取引。 | 口座が休眠状態であるか、商業的目的のない「通過(pass-through)」送金にのみ使用される。 |
| 事業目的 | 地域統括本部、IP保有、M&Aのための事業体など、明確な商業的機能を果たしている。 | 主に実質的な所有者を隠蔽したり、低税率地域に人為的に利益を計上するために存在する。 |
| 実質の証拠 | 雇用契約書、オフィス賃貸契約書、監査済み財務諸表、議事録を提示できる。 | 事業運営を立証できない。すべての書類が一般的なものか、存在しない。 |
コンプライアンスを満たし、戦略的な香港事業体を構築する
香港法人を必要とする事業にとっての目標は、正当性のある実質を伴う構造を構築することです。以下に、事業体の目的に基づいた実行可能な戦略をご紹介します。
1. 持株会社・投資事業体の場合
- 現地人材を雇用する: 投資ポートフォリオを管理するため、香港で少なくともパートタイムまたはフルタイムの従業員を1名以上雇用します。
- 意思決定を文書化する: 取締役会を香港で開催し(または参加者が香港にいる状態でオンライン開催)、すべての投資決定の詳細な議事録を保管します。
- 現地で経費を計上する: 香港に拠点を置くコーポレートサービスプロバイダー、法律顧問、監査法人を利用します。活発に管理されている香港の銀行口座を維持します。
- FIHV制度を検討する: ファミリーオフィスの場合、ファミリー投資ビークル(FIHV)制度では適格取引に対して0%の税率が適用されますが、実質的活動と最低2億4,000万香港ドルの運用資産が必要です。
2. 地域統括本部または貿易部門の場合
- 物理的な拠点を確立する: サービス付きオフィスやコワーキングスペースを賃貸します。これは実質の強力な証拠となります。
- 中核チームを構築する: 販売、調達、地域戦略を担当する主要スタッフを香港で雇用します。
- 現地で契約を結ぶ: 香港法人を通じて重要な契約(販売契約、サービス契約など)を締結します。
未来:透明性とグローバル最低税
状況は進化し続けています。香港は2025年6月6日にグローバル最低税(第2の柱)を可決し、2025年1月1日以降に開始する会計年度から施行します。これは、大規模な多国籍企業グループ(連結収益7.5億ユーロ以上)に対して15%の最低実効税率を課すものです。
香港持株会社を利用するグループにとって、これは、香港での実効税率(8.25%/16.5%の税率を考慮)が15%を下回る場合、追加税(トップアップ税)が香港(香港最低補足税の下で)または親会社の所在国で支払われる可能性があることを意味します。これは、実質を伴わない純粋な低税率構造のメリットをさらに減少させます。
✅ まとめ
- 実質は絶対条件: 2023/24年度に導入されたFSIE制度は、外国の受動的所得の免税を主張するために、香港における経済的実質を義務付けています。従業員も事業活動もない「シェル」はこのテストに合格できません。
- すべてを文書化する: 取締役会議事録、雇用契約書、請求書、銀行取引明細書など、香港での事業運営の実態を証明する完璧な記録を保管します。
- 専門家の助言を求める: ルールは複雑で進化しています。香港および国際的なコンプライアンス要件を理解する資格のある税務アドバイザーの指導の下で、香港事業体の構造を設計します。
- 長期的に計画する: グローバル最低税と情報の自動的交換により、透明性が新たな標準となっています。税制上効率的であり、かつ商業的に正当性のある構造を構築します。
香港は、強固な法制度、シンプルな税制、戦略的な接続性を提供する、国際ビジネスの主要な拠点であり続けています。その利点を活用する鍵は、もはや不透明さではなく、明確さと実質です。法人構造を真の経済活動と最新のコンプライアンス基準に合わせることで、グローバルな成長のための強靭で効率的なプラットフォームを構築することができます。
📚 参考資料
本記事の内容は、香港政府の公式資料および信頼できる情報源に基づいて作成されています:
- 香港税務局(IRD) – 公式税率、控除額、税務規則
- 税務局事業所得税(利得税)ガイド – 税率、源泉地主義の詳細
- 税務局外国源泉所得免税(FSIE)制度 – 経済的実質要件の詳細
- 税務局ファミリー投資ビークル(FIHV)制度 – ファミリーオフィス向け税制
- 香港政府ポータル – 香港特別行政区政府公式サイト
- 2024-25年度香港予算案 – 税制改正の公式情報
最終更新:2024年12月 | 本記事の情報は一般的な参考情報であり、具体的な問題については資格を持つ税務専門家にご相談ください。