オフショアとオンショア:香港における最適な税務効率化のための投資構造
📋 ポイント早見
- 源泉地主義: 香港源泉の利益のみが事業所得税(利得税)の課税対象です。
- 法人税率: 最初の200万香港ドルは8.25%、残額は16.5%の二段階税率です。
- FSIE制度第2段階: 2024年1月1日より、譲渡益の対象が全種類の資産に拡大されました。
- 経済的実質: 多国籍企業(MNE)は、香港において十分な事業活動を実証する必要があります。
- キャピタルゲイン税なし: 原則としてキャピタルゲインは非課税ですが、MNEのFSIE対象所得は例外です。
- オフショア申請の有効性: 承認されたオフショアステータスは通常3〜5年間有効です。
- EUコンプライアンス: 香港は2024年2月、EUの税務監視リストから除外されました。
香港を通じて投資を構築している方々にとって、外国源泉所得免税(FSIE)制度の導入や経済的実質要件の強化により、オフショアとオンショアの税務上の区別はかつてないほど複雑になっています。本ガイドでは、香港の源泉地主義税制、2024年までの最新のFSIE制度の展開、そして完全なコンプライアンスを維持しながら最適な税務効率を達成するための戦略的考慮事項について解説します。
香港の源泉地主義税制の理解
香港は「源泉地主義」に基づく税制を採用しており、香港に源泉がある利益のみが事業所得税(利得税)の課税対象となります。この基本原理は、全世界所得課税を採用する多くの国・地域と香港を区別する特徴です。しかし、その実務的な適用には、利益がどこで、どのように生み出されたかの慎重な分析が必要です。
事業活動テスト:税務局が源泉を判断する方法
香港税務局(IRD)は、利益の源泉を判断するために「事業活動テスト」を適用します。このテストでは、納税者が利益を得るために何を行ったか、そしてその利益創出活動がどこで発生したかを検討します。利益を本質的に生み出す事業活動が香港で行われた場合、その利益は香港で課税対象となります。逆に、本質的な利益創出活動が香港以外で行われた場合、その利益は香港の事業所得税の対象外となります。
事業活動テストは、固定された基準を機械的に適用するものではありません。IRDは各取引のすべての関連する事実と状況を考慮します。主な考慮事項は以下の通りです。
- 契約交渉・締結の場所: 売買契約が成立した場所
- 意思決定の場所: 戦略的・運営上の決定が行われた場所(ただし、これだけでは決定要因とはなりません)
- 利益創出活動の場所: 実質的な業務が行われた場所
- 商品の調達先やサービスの提供先: 事業活動の地理的な位置
貿易利益:明確な判断基準
貿易事業については、IRDが源泉を判断するための明確なガイドラインを設けています。
| シナリオ | 税務上の取り扱い |
|---|---|
| 購入契約と販売契約の両方が香港で締結された場合 | 利益は香港で課税対象 |
| 購入契約と販売契約の両方が香港以外で締結された場合 | 利益は香港で非課税 |
| 購入契約または販売契約のいずれかが香港で締結された場合 | 課税対象と推定されるが、すべての関連事実の検討が必要 |
外国源泉所得免税(FSIE)制度:ゲームチェンジャー
FSIE制度は、香港の源泉地主義税制を維持しつつ、EUの二重非課税への懸念に対応するために導入された、香港の税制における重要な進化です。香港で事業を行うすべての多国籍企業(MNE)が理解すべき、2段階の導入プロセスを経ています。
第1段階:2023年1月1日からの施行
最初のFSIE制度は2023年1月1日に発効し、MNE構成企業が香港で受け取る以下の4種類の特定外国源泉所得を対象としました。
- 利子所得
- 配当所得
- 株式譲渡益
- 知的財産(IP)所得
この制度の下では、香港で事業を行うMNE構成企業がこれらの種類の外国源泉所得を香港で受け取った場合、その所得は香港源泉とみなされ、企業が特定の免税要件を満たさない限り、事業所得税の課税対象となります。
第2段階:2024年1月1日からの大幅な拡大
2023年12月8日に成立したさらなる改正により、FSIE制度は2024年1月1日から大幅に拡大されました。主な変更点は以下の通りです。
- 譲渡益の対象範囲の拡大: 株式のみならず、あらゆる種類の資産(動産・不動産)の譲渡益が対象となりました。
- キャピタル・レベニュー両方の益: 譲渡益がキャピタル的な性質かレベニュー的な性質かを問わず制度が適用されます。
- 金融資産・非金融資産: 拡大された制度の下で、すべての資産タイプが対象となります。
- グループ内譲渡の救済措置: 関連企業間の譲渡による譲渡益に対する課税を繰り延べる新たな救済メカニズムが導入されました(濫用防止規則の対象)。
FSIE制度の対象者は?
FSIE制度は、特にMNE構成企業を対象としています。以下の条件を満たす場合、その企業はMNEグループの一部とみなされます。
- 連結財務諸表を作成するグループの一部である。
- グループに複数の国・地域に所在する構成企業が含まれる。
- グループの年間連結収益が7億5,000万香港ドル(約750億円)以上である。
重要な点として、個人およびMNEグループに属さない純粋な国内企業はFSIE制度の対象外であり、従来のオフショア利益免税の恩恵を受け続けることができます。
FSIE制度下での免税要件
MNE構成企業は、所得の種類に応じて以下の3つの要件のいずれかを満たすことで、特定外国源泉所得を香港の事業所得税から免税とすることができます。
1. 経済的実質要件
経済的実質要件は、利子所得、配当所得、および非IP譲渡益に適用されます。この要件を満たすためには、企業が当該外国源泉所得に関連して香港において十分な経済活動を行っていることを実証する必要があります。
IRDは固定されたチェックリストではなく、「十分性テスト」を適用します。評価には以下の点が考慮されます。
- 十分な従業員: 関連活動を行うための適格な人員が香港に十分にいること。
- 十分な運営経費: 所得創出活動に比例した経費が香港で発生していること。
- 十分な物理的拠点: 事業運営に適したオフィススペースと設備があること。
2. 参加要件
参加要件は、外国源泉配当および株式譲渡益に適用されます。免税の資格を得るためには、香港の企業が以下の条件を満たす必要があります。
- 所得を生み出す企業の株式を少なくとも5%保有していること。
- この保有を少なくとも12ヶ月間継続していること。
- 濫用防止条件を満たすこと(被投資企業の資産価値の50%超を香港の不動産から得ていないこと)。
3. IP所得に対するネクサス要件
ネクサス要件は特にIP所得に適用され、OECDの修正ネクサス・アプローチに基づいています。この要件を満たすためには、企業がIP所得と香港で行われる研究開発(R&D)活動との間に直接的な関連性があることを実証する必要があります。
ネクサス計算では、香港で発生した適格R&D支出と総R&D支出が比較されます。香港のR&D活動に比例したIP所得のみが免税の対象となります。これにより、MNEが香港での実質的なR&D活動なしにIP所得を香港経由で流すことが防止されます。
オフショア税務申請:プロセスと書類
FSIE制度の対象外となる企業(非MNE企業)、またはFSIEの範囲外となる所得については、従来のオフショア申請プロセスが引き続き関連します。
オフショア税務申請の提出:ステップバイステップ
- 初期申請: 利益のオフショア性を裏付ける詳細な書類を、事業所得税申告書とともに提出します。
- IRDの審査: IRDが申請を審査します。通常6ヶ月以上かかることがあります。
- 承認: 承認された場合、オフショアステータスは通常3〜5年間付与されます。
- 継続的なコンプライアンス: 事業活動が引き続きオフショアであることを毎年確認します。
書類要件:必要なもの
| 書類の種類 | 目的 |
|---|---|
| 契約書・合意書 | 契約がどこで交渉・締結されたかの証拠 |
| 通信文・連絡記録 | 事業交渉と運営の場所を示す |
| 銀行取引・支払記録 | 支払いの流れと銀行取引の手配を示す |
| 組織図 | 人員の役割と所在地を詳細に示す |
| 出張記録 | 事業活動がどこで行われたかの証拠 |
| 仕入先・顧客の詳細 | 事業関係の地理的な位置を示す |
投資ビークル構築の考慮事項
香港の源泉地主義税制、FSIE制度、経済的実質要件の相互作用は、投資ビークルを構築するための複雑な環境を作り出しています。最適な構築には、複数の要因を慎重に考慮する必要があります。
MNE vs. 非MNEの構造:重要な決定
最も基本的な構築上の決定の一つは、投資構造がMNEグループの一部となるかどうかです。非MNE構造は、FSIE制度の影響をほとんど受けず、利益の源泉に関する要件を満たす限り、従来のオフショア免税の恩恵を受け続けることができます。
経済的実質の計画:正しく行うには
特定外国源泉所得を受け取るMNE構成企業にとって、香港に十分な経済的実質を確立することは、多くの場合、最も実用的な免税ルートです。これには真の事業拠点が必要です。
- 適格な人員: 投資意思決定に適切なスキルと権限を持つ従業員を雇用する。
- 運営経費: 香港のオフィススペースを維持し、活動に比例した運営コストを発生させる。
- 取締役会・経営会議: 投資決定が行われる実質的な会議を香港で開催する。
- 書類管理: 香港の人員が関連活動を行っていることを証明する記録を維持する。
将来の展開:第2の柱(グローバル最低税)の導入
香港は、OECDの第2の柱グローバル最低税(GloBE)ルールを導入するための法案を可決しました。内容は以下の通りです。
- 所得合算ルール(IIR): 2025年1月1日以降に開始する会計年度に適用。
- 香港最低補足税(HKMTT): 2025年1月1日から同様に適用。
- 過少課税利益ルール(UTPR): 施行日は後日発表予定。
これらのルールは、連結収益が7億5,000万ユーロ(約65億香港ドル)以上のMNEグループに適用され、各管轄区域における利益に対して最低15%の実効税率を確保します。投資構造は、FSIE制度と第2の柱の間の相互作用、特に実質要件と実効税率の計算について考慮する必要があります。
✅ まとめ
- 香港は源泉地主義税制を維持していますが、特定外国源泉所得を受け取るMNE構成企業の二重非課税を防止するためにFSIE制度を導入しました。
- 利益源泉の判断は依然として重要であり、意思決定がどこでなされたかだけでなく、利益創出活動がどこで行われたかを検討する事業活動テストに基づきます。
- FSIE制度は2024年1月1日から大幅に拡大され、株式のみならずあらゆる種類の資産の譲渡益が対象となりました。
- 経済的実質は、オフショア申請とFSIE免税の両方で重要性を増しており、IRDは事業規模に比例した十分性テストを適用します。
- 非MNE企業はFSIE要件の影響をほとんど受けず、活動が真に香港外で行われている場合は従来のオフショア免税の恩恵を受け続けられます。
- 持株会社構造は、FSIE免税のための5%保有要件や譲渡益に対する税務確実性のための15%保有要件により恩恵を受けます。
- IP構造は、免税を申請するIP所得に比例した香港での真のR&D活動を要求する厳格なネクサス要件に直面します。
- IRD審査時にオフショア申請とFSIE免税を裏付けるためには、堅牢な書類管理と同時進行の記録保持が不可欠です。
- 2025年からの第2の柱の導入は、大規模MNEグループにさらなる複雑さをもたらし、最低実効税率の考慮を必要とします。
- 進化する要件への完全なコンプライアンスを維持しつつ税務効率を達成する投資構築のためには、事前計画と専門家の助言が極めて重要です。
香港の税務環境は、伝統的な源泉地主義税制と国際的なコンプライアンス要件のバランスを取りながら進化し続けています。FSIE制度と経済的実質要件は複雑さを増しますが、香港で事業を行うMNEにとって明確さと確実性も提供します。成功する税務構築の鍵は、これらのルールを理解し、適切な書類を維持し、特定の状況に合わせた専門家の助言を求めることにあります。
📚 参考資料
本記事の内容は、香港政府の公式資料および信頼できる情報源に基づいて作成されています:
- 香港税務局(IRD) – 公式税率、控除額、税務規則
- 差餉物業估価署 – 不動産評価
- 香港政府ポータル – 香港特別行政区政府公式サイト
- 立法会 – 税務法規・改正
- IRD FSIE制度ガイド – 外国源泉所得免税制度の規則と要件
- IRD事業所得税ガイド – 法人税率とオフショア申請プロセス
- OECD BEPS – グローバル最低税(第2の柱)に関する情報
最終更新:2024年12月 | 本記事の情報は一般的な参考情報であり、具体的な問題については資格を持つ税務専門家にご相談ください。