香港税制の変革が迫る:企業が準備すべきこと
📋 ポイント早見
- グローバル最低税: 香港は2025年6月6日に「第2の柱」関連法を可決し、2025年1月1日より施行。収益7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループに15%の最低実効税率を適用します。
- 外国源泉所得免税(FSIE)制度: 2024年1月に第2段階が施行され、配当、利息、譲渡益、知的財産所得について、香港での経済的実質が免税要件となりました。
- 印紙税の大改正: 特別印紙税(SSD)、買主印紙税(BSD)、新規住宅印紙税(NRSD)は、2024年2月28日に廃止されました。
- 事業所得税(利得税): 二段階税率制度は継続。法人の場合、最初の200万香港ドルは8.25%、残額は16.5%です。
香港の税制は、国際的な金融ハブとしての地位を維持しつつグローバルな税務基準に対応するため、2024年から2025年にかけて大きな変革期を迎えています。多国籍企業からファミリーオフィスまで、すべての事業活動に影響を与えるこれらの変化は、単なるコンプライアンス対応を超えた戦略的優位性を生む鍵となります。本記事では、すでに施行された主要な税制改正の現状と、ビジネスが取るべき具体的なアクションについて解説します。
香港税制改革の現状:すでに施行された改正事項
多くの情報が「将来の変化」を予測していますが、実際には2024年から2025年にかけて、いくつかの重要な税制改革がすでに施行されています。ビジネスは「将来への備え」ではなく、「現在のルールへの対応」に焦点を移す必要があります。
| 改正分野 | 現状 | 施行日 | 主な影響 |
|---|---|---|---|
| 外国源泉所得免税(FSIE)制度 | 施行済み | 第1段階:2023年1月 第2段階:2024年1月 |
配当、利息、譲渡益、知的財産所得の免税に、香港での経済的実質が必須 |
| グローバル最低税(第2の柱) | 施行済み | 可決:2025年6月6日 効力発生:2025年1月1日 |
収益7.5億ユーロ以上の多国籍企業に15%の最低実効税率を適用 |
| 不動産関連印紙税 | 廃止済み | 2024年2月28日 | SSD、BSD、NRSDが廃止。従価印紙税のみが残る |
| ファミリー投資ビークル(FIHV)制度 | 施行済み | 2024年4月1日 | 2.4億香港ドル以上の運用資産を持つ適格ファミリーオフィスに0%税率を適用 |
ビジネス計画への影響
「来るべき変化」への準備ではなく、すでに施行されている改革へのコンプライアンス対策を積極的に実施すべき時期です。特に以下の分野で、対応が急務となっています。
- 多国籍企業: グローバル最低税(15%)およびFSIE制度の経済的実質要件への対応が必須です。
- 不動産投資家: 印紙税の廃止による恩恵を受けられますが、残存する従価印紙税の税率を理解する必要があります。
- ファミリーオフィス: FIHV制度の下で適切な構造化を行えば、0%の税率を享受できます。
- すべての事業者: OECD基準に沿った移転価格文書の更新が必要です。
事業所得税(利得税):現状と安定した制度
事業所得税(利得税)については、大きな変更はなく、二段階税率制度が安定して継続されています。2024-2025年度に適用される実際の税率は以下の通りです。
| 事業体の種類 | 最初の200万香港ドル | 残額 | 主な制限 |
|---|---|---|---|
| 法人 | 8.25% | 16.5% | 関連グループごとに1社のみ低税率を適用可能 |
| 非法人事業 | 7.5% | 15% | 同上(1事業体のみ) |
源泉地主義:明確化された適用ルール
香港の基本原則である源泉地主義(香港源泉の所得のみが課税対象)は変わりません。FSIE制度は、この原則が外国源泉所得にどのように適用されるかを「明確化」したものです。現在、以下の所得について免税を主張するには、香港における経済的実質を証明する必要があります。
- 外国子会社からの配当金
- 海外投資からの利息所得
- 外国資産の譲渡益
- 海外からの知的財産所得
グローバル最低税:香港における「第2の柱」の実施
これはビジネスが対処しなければならない、最も重要な実際の変化です。香港は2025年6月6日にグローバル最低税関連法を可決し、その効力を2025年1月1日に遡って適用します。以下が重要なポイントです。
| 要素 | 詳細 | 適用対象 |
|---|---|---|
| 最低税率 | 15%の実効税率 | 対象となる多国籍企業グループ |
| 収益閾値 | 連結収益7.5億ユーロ以上 | 前事業年度に基づく |
| 主要ルール | 所得合算ルール(IIR) 香港最低補足税(HKMTT) |
国内での追加税メカニズム |
| 初回申告 | 2026年(2025年度分) | 年度終了後15ヶ月が期限 |
印紙税の大改革:2024年に実際に何が変わったか
2024年における最も劇的な実際の変化は、2024年2月28日に3つの主要な不動産印紙税が完全に廃止されたことです。これは不動産市場の活性化を図る重要な政策転換です。
- 特別印紙税(SSD): 廃止 – 3年以内に売却された不動産に対する税金が無くなりました。
- 買主印紙税(BSD): 廃止 – 非永住者も現地住民と同じ税率を適用します。
- 新規住宅印紙税(NRSD): 廃止 – セカンドホーム購入者も標準税率を適用します。
残るのは、物件価格に応じた累進税率が適用される標準的な従価印紙税のみです(2024年2月改正後)。
| 物件価格 | 印紙税率 |
|---|---|
| 300万香港ドル以下 | 100香港ドル |
| 352.8万〜450万香港ドル | 1.5% |
| 493.5万〜600万香港ドル | 2.25% |
| 664.3万〜900万香港ドル | 3% |
| 1,008万〜2,000万香港ドル | 3.75% |
| 2,173.9万香港ドル超 | 4.25% |
ファミリーオフィスへの優遇措置:FIHV制度の現実
香港はファミリーオフィスを誘致するため、ファミリー投資ビークル(FIHV)制度を確立しました。これは「新たな優遇措置」というより、明確な要件を持つ確立されたプログラムです。
- 税率: 適格取引に対して0%
- 最低運用資産: 2.4億香港ドル
- 実質的活動: 投資管理および関連活動を香港で行う必要あり
- 適格資産: 証券、プライベート・エクイティ、ファンド、その他の適格投資
コンプライアンス期限:2024-2025年度の実際の要件
以下は、ビジネスが直面する実際のコンプライアンス期限です(将来の仮説的な日付ではありません)。
| 要件 | 期限 | 影響を受ける対象 |
|---|---|---|
| 事業所得税(利得税)申告書 | 発送日から1ヶ月(通常6月初旬) | 香港で所得を得るすべての事業 |
| 移転価格文書 | 税務局の要求時に提示可能な状態 | 関連者間取引を行う事業 |
| 国別報告書 | 年度終了後12ヶ月 | 収益7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループ |
| グローバル最低税申告 | 年度終了後15ヶ月(初回は2026年) | 対象となる多国籍企業グループ |
| 記録保存 | 最低7年間 | すべての納税者 |
✅ まとめ
- 主要な税制改革は「近い将来」ではなく、すでに施行済みです。現在のコンプライアンス対応に集中しましょう。
- グローバル最低税(15%)は、大規模多国籍企業に対して2025年1月1日に遡って適用されます。
- 不動産印紙税(SSD、BSD、NRSD)は2024年2月28日に廃止されました。
- FSIE制度では、外国所得の免税に香港での経済的実質が求められます。
- ファミリーオフィスは、2.4億香港ドル以上の運用資産があればFIHV制度下で0%税率を享受できます。
- 移転価格文書はOECD BEPS基準に沿って整備する必要があります。
香港の税制環境は近年で最も大きな変革を遂げましたが、その変化は遠い未来の話ではなく、すでに現実のものとなっています。特にグローバル最低税とFSIE要件といった施行済みの改革に積極的に対応する企業は、2025年を自信を持って乗り切ることができるでしょう。「将来の変化」を待っているだけでは、コンプライアンス違反によるペナルティや機会損失のリスクに直面します。準備は昨日すべきでしたが、行動を起こすべき時は今です。
📚 参考資料
本記事の内容は、香港政府の公式資料および信頼できる情報源に基づいて作成されています:
- 香港税務局(IRD) – 公式税率、控除額、税務規則
- 差餉物業估価署 – 不動産評価
- 香港政府ポータル – 香港特別行政区政府公式サイト
- 立法会 – 税務法規・改正
- 税務局 FSIE制度ガイダンス – 外国源泉所得免税制度の詳細
- 税務局 FIHV制度ガイダンス – ファミリー投資ビークル制度の詳細
- 税務局 印紙税ガイダンス – 印紙税の最新税率と計算方法
最終更新:2024年12月 | 本記事の情報は一般的な参考情報であり、具体的な問題については資格を持つ税務専門家にご相談ください。